ニーバーという「技術」とニーパッド
ニーバーという「技術」
ニーバーとは?
これは改めて説明する必要もないかもしれないけど、ヒザと足先を突っ張って固定することで、体を安定させるテクニック。
実際にはヒザというより太もも辺りを当てることが多い。
基本的にはレスト技術だけど、手の保持が悪いところでなんとかムーヴを起こしたり、クリップのために使ったりもする。
どこで使う?
基本的にはコルネが発達した石灰岩の岩場で使うことが多い。というか、それ以外で使える機会はあまり多くないと思う。
関東周辺のリードの岩場には色々行ったけど、頻繁に使うのは二子山・弓状エリアくらい。
スペインなどには強傾斜の石灰岩が多く、ニーバーの出番が多い。
2本のコルネの間に足を横向きにして入れたり、大きな穴を利用したり。
上手いとか下手ってある?
これは間違いなくある。
正直、最初は僕も「ちょうどいい隙間に足突っ込むだけじゃん」と思っていた。実際、特に教えてもらわなくても最初からそれなりにできたし、多少経験を積んだ今は根拠のない自信のようなものもある。
ただし、僕の知り合いの中には、教えてあげても全然できないという人も何人かいる。
足の長さは人それぞれなので、ニーバーができる場所、できない場所というのは違いが出る。ただ、明らかにそれだけではない。
そして自分も大してニーバー上手くないじゃんと痛感させられたのがこの動画。
アダム・オンドラが二子山のフラットマウンテン(5.14d/15a)にトライした時のもの。このルートは下部がノースマウンテン(5.12a)と共通になっている。
動画の2:20くらいからニーバーのシーン。ここは僕もニーバーでクリップ後、少しレストするところ。
確かに手の負荷は減らせるんだけど、ノーハンドになれる気は全くしない。
ちなみにアダムがニーバー技術について解説した動画がある。
うむ、言いたいことはわかる。
確かにニーバーというのは腕を休められる代わりに、体幹を消耗すると感じることが多い。
これはニーバーをする時、上半身が起きていて、腹筋辺りに力が入っているからだ。うん、なんとなくわかってた。コウモリのように頭を下にすれば解決だ。
ただこれを実際にやろうとするとめっちゃ怖い。特に自分の体より低い位置でクリップしている時は、どうしても「落ちたらどうなるんだろう?」と想像してしまう。
以前はアダムが自宅のソファー並みにリラックスしているニーバーシーンを見ても、「度胸あるなぁ」とか、「たぶんヒザも足先もホールドがいいんだな」とか的外れなことを考えていた。
でもフラットマウンテンの動画を見て確信した。これは技術だ。バランスの取り方など、とても奥が深いのだと思う。
ニーパッド
効果
まず岩に当てているヒザ(太もも)の痛みが激減する。
ニーパッドなしだと痛くて手が離せないようなレストポイントでも、完全に足に体重を預けられるようになる。
特に女性はニーバーによってできる黒アザが気になるという人もいると思うけど、これもニーパッドがあれば解決だ。
また、岩と接している部分のフリクションが増し、普通のパンツだと滑ってしまうような場所でもニーバーが使えたりする。
効果の大きさをグレードで表現するのは難しいけど、明らかに1グレード易しくなることは珍しくないし、ルートによっては2グレード近く変わると感じることもある。
それに対して、デメリットはほとんどない。
若干足を動かしづらく感じるけど(アダムも目的のニーバーが終わったらルート中で外したりしてるよね)、恐らく気持ちの問題で、膝関節の可動域への影響はほぼゼロなんじゃないかな。
ただ通気性は皆無なので、ニーパッドを装着している部分はめっちゃ蒸れる。笑
ニーパッド使うのってズルい?
これはとても難しい問題だけど、YesかNoかで答えろと言われたら、Yes(ズルい)のかなぁ…。
ちなみに僕は効果があるルートではめっちゃ使う。
なぜ「ズルい」と感じるかと言うと、すでに書いた通りグレードが変わるほど効果が大きいから。
クライミングは同じルートを登るにしても、より困難なスタイルで登った方が評価されるスポーツだと思う。
例えば事前にルートの情報ありきで登るフラッシュより、オンサイトの方が評価されるのはそういうことなのだろう。
だからニーパッドを使ったRPより、ニーパッドなしのRPの方が価値があるという主張は理解できる。
正直、ニーパッドなしで登れるなら、そうしたいという気持ちもなくはない。
ただ僕の場合、一生かかっても登り切れないであろう世の中の無数のルートを、できるだけたくさん登りたいという思いの方が強い。
つまり、ニーパッドなしでのRPにこだわるより、ニーパッドを使ってでも早くRPして他のルートをやりたいということ。優先順位の問題だと割り切っている。
アダム・オンドラが使ってるしいいか、という思いもある。笑
コンペは別として、外岩のルートを登れた・登れてないなんて審判がいるわけでもないし、要は各自が納得するスタイルで登ればいいというのが僕の意見。
ちなみに以前、二子山・弓状エリアに来ていたオーストリア人のクライマーから、「ほとんどニーパッド付けてる人いないけど、倫理的(ethic)にここでは使っちゃまずいのか?」と聞かれたことがある。
一方、スペインのRodellar(ロデジャー)というどっ被り石灰岩の岩場では、もはや両足ニーバースタイルが標準だった。
どちらか一方が正解ということではないと思うけど、国によっても違いがあって面白いね。
オススメのニーパッド
オススメするほど実質種類はないんだけど、僕が使っているニーパッドを紹介。他のニーパッドを使ったことがないから比較はできないが、特に不満はない。
恐らくシェア率圧倒的ナンバーワンのSEND。まず名前がいいよね。
悩ましいのはSENDのニーパッドには種類があること。
パッド部分の面積で2種類(MINI/LARGE)、ラバー素材の硬さで2種類(SLIM:柔らかめ/CLASSIC:硬め)の組み合わせで計4種類ある。
MINI SLIM以外は使ったことがないけど、パッドの面積が足りなかったり、ラバーが柔らかいせいで痛みに耐えられないという経験は特にない。
ただMINIは足に固定するためのベルトが2本なのに対し、LARGEは3本なので、より位置がずれにくいという話は聞いたことがある。
二子山でも、1本のルート中で、左右両方の足でニーバーをすることはほとんどない。
だからニーパッドも1つしか持ってなかったんだけど、スペインのRodellar(ロデジャー)に行く前、追加でもう1つ購入した。
結果からすると、その時登ったルートに関してはほとんど1つでもよかった。
ただし、強傾斜が長く続く高グレード(概ね7c+以上)にトライするクライマーは、両足ニーパッドスタイルが多かった。恐らくよりニーバーの出番が多いのだろう。
また、どっちの足でニーバーするかわからない中でのオンサイトトライでは、とりあえず両足に装着もありだと思う。
それにしても、ゴムの板と足に巻き付ける布、それにベルトが付いただけなのに、良い値段するよね…。