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初めての北鎌尾根:ちょっと無謀だったソロ山行

きい

この記事は、2020年9月に行った、槍ヶ岳・北鎌尾根での山行について書いたものです。

思い立ったが吉日

2020年9月4日~6日、西穂から奥穂への縦走に挑戦した。「ジャンダルム」を通るルートだ。

それまでに、大キレット(南岳~北穂)など、槍・穂高の一般縦走路は全て踏破していた。満を持しての挑戦だ。

槍・穂高の一般縦走路の中で最も技術的難易度が高いのは、北穂~奥穂間だと思う。知名度では大キレットに劣るものの、岩がより不安定で、鎖・ハシゴなどで整備された箇所が少ない。

荷物を軽くするため、いつものテン泊装備ではなく小屋泊だったが、西穂~奥穂縦走は大成功だった。

ジャンダルムの天使と撮影

このルートの扱いは微妙で、完全なバリエーションルートという訳ではないが(むしろ最近は一般ルートという認識なのかな)、マーキングやハシゴ・鎖などの整備は少ない。

ルート終盤から、前日山荘で同部屋だった人たちに追いついて一緒に登ったが、一応ソロ山行。特に危険を感じる場面もなかったし、体力的にも余裕があった。

憧れのルートを無事踏破でき、もちろん嬉しかったが、同時に少し物足りなさも感じていた。「これならテン泊装備で来ればよかったな」、「一般ルートに比べて少ないとはいえ、マーキング追ってれば迷わないな」、「クライミング要素ほとんどなかったな」。

上高地から都内の自宅へ帰る車の中では、すでに「次はどこに登ろうか」と考えていた。そしてすぐ、燕岳に登った時から目に焼き付いていた、槍ヶ岳から北に伸びるギザギザの稜線が思い浮かんだ。

「北鎌尾根」。直接の知り合いで登った人もいたし、山岳小説でもその名を目にしている。いつかは行ってみたいという、漠然とした思いはあったが、なんとなく自分には遠い世界のようにも感じていた。

どれくらいの難易度なのか、事前にどういうルートで経験を積むべきなのか、正直全然わからない。

でも、考え始めると、自然と行きたくなってしまった。

すでに夏山シーズン終盤。普通に考えれば、しっかり準備と計画をして、来シーズンに挑戦するべきなのだろう。

しかし、来シーズンというと、約10カ月も先になる。なんとか今シーズン登れないものかと、とりあえず情報収集だけでもしてみることに。

大急ぎの準備と計画

情報収集

ということで、西穂~奥穂の縦走を終えた翌日から、早速北鎌尾根に関する情報を集めてみた。

まず気になったのは、ロープが必要かどうかということだ。この時の僕は、毎週ボルダリングジムに通ってはいたものの、ロープを使ったクライミング経験は全くなかった。

色々な人の山行記録を見ると、ルート中で懸垂下降(当時はそれが何なのかもよくわかってなかったが…)をしている場合もあるが、ロープを使わずに登頂している人も少なくない。

次はルートファインディングについて。北鎌は知名度があり、「もはや破線ルート」と書いている人もいたが、れっきとしたバリエーションルートだ。

これまで、バリエーションルートの経験はない。上で書いた通り、西穂~奥穂が一般ルートなのかは微妙な扱いだが、実際に登った感想としては「ほぼ一般ルート」だ。

とりあえず、ブログなどの山行記録を読み漁り、できる限りルートを頭に叩き込む。北鎌に行ったことがある知り合いにも、直接話を聞きに行き、注意点などを教えてもらった(その時すでに心配されたがw)。

体力面については、累積標高差を考えると、3泊4日なら自分でも無理なく行けそうだ。

クライミング技術については、簡単て書いている人もいるし、難しいと書いている人もいる。Ⅱ級とかⅢ級とかいうグレードについてはよくわからない(ボルダリングジムの2級・3級とはまた違うようだw)。

楽観的な僕は、なんとなく総合的に考えて、「まぁ行けるっしょ」という結論に達した。

装備

僕の普段のテン泊装備は、17~18kgと重量級。いつものんびり登山で、特に軽量化を意識したことはなく、テン泊登山を始めた時にとりあえず揃えた装備をずっと使っていた。

北鎌はそもそも尾根に取り付くまでのアプローチも大変で、体力面でも負荷が高い。

良い機会なので、ザックやスリーピングマットなど、一部のギアを新調することに。それでもまだ北鎌に行く装備としては決して軽くないけど、13kgくらいになった。

行程

上で書いた通り、3泊4日となるので、4日間の休みが必要だ。ちょうどよく、この年のシルバーウィークは4連休。これを使わない手はない。

こうして、きっかけとなった西穂~奥穂縦走からわずか2週間後、北鎌尾根に向かうことに。勢いって怖ろしいね。笑

ちなみに、登山はいつも基本独りなので、今回も深く考えずソロ山行。

2020年9月19(土)
Day1

上高地→ババ平

9月20日(日)
Day2

ババ平→水俣乗越→北鎌沢出合→北鎌のコル(ビバーク)

9月21日(月)
Day3

北鎌のコル→天狗の腰掛→独標→北鎌平→槍ヶ岳山頂→ババ平

9月22日(火)
Day4

ババ平→上高地

山行記録

Day 1

2週間ぶりの上高地。前日の金曜日、上高地は大雨だったようだ。翌日の北鎌沢の登りが心配になり、念のため登山相談所に沢の増水状況を確認。

バリエーションルートにも関わらず、「もうすでに沢の水はだいぶ引いてるよ、楽しんで来て!」と明るく見送ってくれた。

08:09 上高地

いつもの梓川沿いの道を歩いて横尾に到着。曇りのち晴れの予報通り、天気は回復。しかし、数日前まで4連休は雨が多い予報だったため、意外に人は少なめか?

10:24 横尾

今回は、過去一の数のサルを見かけた。横尾から槍沢ルートに入って間もなく、2匹のサルが現れ、そのまま前を10分近く同じペースで歩いていた(笑)。最終的には横に避けて道を譲ってくれた。

10:40 槍沢ルートでサルの先導

順調に槍沢ロッジに到着。ババ平キャンプ場の受付けを済ませ、やきとり丼を注文する。

12:21 槍沢ロッジ

テントを設営後、着替えてから着ていた服を乾かす。3泊4日なのでさすがに着替えは持って来たが、今回は軽量化を重視して最低限にした。

15:07 ババ平

この日、ババ平キャンプ場にはかなりの数のテントが張られていた。今年はコロナの影響で、テン場も予約制のところが多いが、ここは予約不要なので人が集中したのかな?

15:58 ババ平

Day 2

翌朝、槍沢を登って行く。少し前までこの日の稜線上は雪の予報もあり、予報が変わらなければ一般ルートに変更するつもりだったが、曇りのち晴れの予報に変わったため、予定通り北鎌へ向かうことにする。

06:06 ババ平

水俣乗越に到着。大曲からここまでのルートは、あまり人が入らないようで、少しルートミスしそうなところがあった。

一般ルートはここまで。初めてのバリエーションルートだ。一気に緊張感が高まってくる。

水俣乗越で休憩(すぐに踏ん切りがつかなかったw)している時、通りがかりの登山者とおしゃべり。お互い「どちらに行かれるんですか?」という定番の会話。「北鎌尾根に…」と答えると、「えっ!すごいですね!」と羨望の眼差し。

もちろん悪い気分ではないが、実際に口にすると、「おれ本当に行くのね」とさらに緊張が。

意を決し、ロープをくぐって天上沢へ下っていく。最初の50mほどは、一般ルートではまずあり得ない急な斜度。木の根などを掴みながら、上手くスピードを殺して転ばないように。

07:23 水俣乗越

しばらく下りると、踏み跡が2つに分かれる。右側のルートは巻道のような感じで、いくらか斜度が緩そうだったのでこちらをチョイス。

それでもザレザレの急斜面ということに変わりはなく、大変は大変。

ここはどうしても多少の落石を起こしてしまうことは避けられないと思うので、下に先行者がいる場合は距離を空ける必要があるだろう。

07:43 天上沢への下り

次第に北鎌尾根が視界に入るようになる。

07:47 天上沢への下り

巻道を下りていくと、再び沢と合流する。

08:16 天上沢への下り

沢を下りる途中、たまにテープやケルンを見かけた。間違ったところに設置されていると思われるものはなかったが、ここはあくまでもバリエーションルート。過度な信頼は禁物。

08:26 天上沢への下り

さらに高度を下げていくと、槍の穂先を視界に捉える。この後しばらくすると見えなくなり、次に見えるタイミングは翌朝、しばらく稜線を歩いてからになる。

08:27 天上沢への下り

途中から沢に水が出始めた。他の人の山行記録の中には、靴を脱いで渡渉しているものもあったが、この日は水量が少なく、どこでも石の上を歩いて渡ることができた。

09:12 天上沢

だんだん沢幅が広くなってくる。途中、沢が分岐しているところがあったが、見た限りではどこも再び本流に合流していたので、恐らくどこを歩いても問題ないだろう。

09:15 天上沢

さらに歩いて行くと、左側に北鎌沢が現れる。「北鎌沢出合い」と呼ばれるところ。周辺にはケルンも積まれていて、見逃す心配はなさそうだったが、通り過ぎることのないよう、GPSで現在地を確認しながら進んだ方がいいだろう。なお、北鎌沢出合いでは水は出ていなかった。

09:38 北鎌沢出合い

北鎌沢出合いには、ビバークに適した場所多数。しかし、ここに泊まると翌日はかなりの体力勝負になるため、今回は尾根上でのビバークを選択。

09:51 北鎌沢出合い

北鎌沢を登り始めると、すぐに左俣と右俣に分かれる。間違って左俣に入ってしまい、遭難するケースも多いため、右俣に入ったことはGPSで確認した方が無難。

ここで、次の日の分も合わせて計4Lの水を背負うが、結果的にはこの3時間後の地点でも水は出ていた。笑

10:08 北鎌沢左俣・右俣分岐

右俣の途中、ここだけ岩の色が違っていた。また、水量が多くて軽いシャワークライミングを強いられる。笑

10:51 北鎌沢右俣

右俣に入ってから最初の分岐。右俣は「最後の分岐以外は全部右に進む!」と聞いていたので、迷わず右をチョイス。

北鎌沢右俣の分岐は、「右右左」とか「右右右左」とか色々情報がある

11:23 北鎌沢右俣

クライミング経験がない場合、ロープが必要そうなところも。

11:35 北鎌沢右俣

特徴的な岩尾根を右手に見ながら進む。

11:43 北鎌沢右俣

自分が確認できた限りでは、ここが2番目の分岐。最後の分岐の右側は「クライマーズホイホイ」と呼ばれていて、遭難多発ポイントという事前知識が頭を過ぎる。

クライマーズホイホイはかなり細い沢地形とも聞いていたので、少し早いなと思いながらも、ここが最後の分岐と判断して左に進む。

11:55 北鎌沢右俣

しかしすぐにまた分岐が。「さっきの分岐はそもそも分岐じゃなく、これが最後の分岐?」と思い、ここも左へ。

12:05 北鎌沢右俣

しばらく進むと道が怪しい感じに。地形図を見る限りではこのまま尾根上に上がれそうではあったが、ここは携帯の電波も入らなかったので、リスクと体力を天秤にかけ、しばらく迷った末に引き返すことに。

この時、初めてバリエーションルートに一人でいることを実感。急に心細くなった。

一旦腰を下ろし、気持ちを落ち着かせるため、おにぎりを食べる。

12:25 北鎌沢右俣

先ほどの分岐まで戻り、今度は右へ。1時間半くらいのタイムロスだ。

13:23 北鎌沢右俣

すると、すぐにまた右に細い分岐が。恐らくこれがクライマーズホイホイだと判断して左へ。

13:24 北鎌沢右俣

事前に情報収集していた倒木を発見!ようやく正しいルートを進んでいることがわかり安堵。

13:29 北鎌沢右俣

最後はこの岩尾根を上がっていく。ここも目印を覚えていないと、本当に正解ルートなのかと疑ってしまうほどの急斜面。

13:34 北鎌沢右俣

ようやく北鎌のコルに到着。水俣乗越からバリエーションルートに入り、初めて他の人に遭遇。一般ルートでは、「なるべく人に遭わない静かな山行がいいな」と思ったりもするが、この時ばかりはかなり寂しさが和らいだ。

ルートミスもありバテバテで、ここでビバークしようかと思ったが、写真のパーティの仲間がさらにヘトヘトで登って来ているということで、その方のためにここは譲って先へ進むことに。

北鎌のコルは平らでテントは張りやすいが、眺望もなければ電波もない。その上、虫が多いので、可能ならもっと先でのビバークがオススメ。

13:56 北鎌のコル
13:56 北鎌のコルにあるプレート

北鎌のコルから少し上がったところから、北鎌沢右俣を見下ろして撮影。恐らくさっき間違ったルートをそのまま進むとここに出られたが、かなりの急斜面で、やはり引き返して正解だったと思う。

14:03 北鎌のコルから少し上がったところ

ここからは踏み跡が明瞭。

14:06 北鎌のコルから少し上がったところ

ツエルトくらいなら張れそうなところは結構ある。

14:10 北鎌のコルから少し上がったところ

稜線上に出ると北アルプスの絶景が。

14:18 北鎌尾根・稜線上

独標が見え始める。難易度は高くないトラバースだが、左側は切れ落ちているので慎重に。

14:25 北鎌尾根・稜線上

15時くらいになり、ビバークポイントを探し始める。しかし、テントを張れそうな所にはことごとく先客が。

さっきまでは、ほとんど人に遭わなかったのに、さすがの4連休だ。テントの端っこが、崖から若干飛び出している人もいる。

この後、無事にテントを張る場所を見つけられるのだろうか?

「ここなら何とか張れるだろうか?」

「いや、さすがにここは…。もうちょっと行けば、少しはマシな場所が見つかるかも…」

そんな葛藤を繰り返しながら、不安な気持ちで足を進める。今更ながら、北鎌沢での1時間半のロスが悔やまれる。

16時近くなり、本格的に焦り始めた頃、天狗の腰掛けと呼ばれる場所に何とかテントを張れる場所を発見。今夜はここでビバークすることに。

16:08 天狗の腰掛け

隣のツエルトの方は、この日の朝に上高地を出発してここまで来たとのこと。その体力にも驚かされるが、やはり軽量化は課題。。。

16:13 天狗の腰掛け

体はもちろん、精神的にもかなり疲弊していたのだろう。普段だと、疲れれば疲れるほど食欲が湧いてくるのだが、食事が喉を通らない。

しかし、消費カロリーを考えると、無理にでも食べる必要がある。北鎌沢で汲んできた水を温め、アルファ米とドライフードに注ぐ。時間はかかったが、何とか食べ終えた。

晩ご飯を終え、そのまま横になる。こんなに疲れていて、明日は大丈夫なのだろうか?ここまで来ると、エスケープルートはない。どうにかして、山頂まで抜ける必要がある。嫌でも不安が頭をよぎる。

夕焼けが綺麗だったが、テントの外に出る気力すらなかった。テントの中から一枚だけ撮影。

17:58 天狗の腰掛け

ちなみにこの後、19時頃にここまで上がってきたパーティは、まともなテントスペースがなく、寝返りを打つと滑落しそうな場所でセルフビレイを取って寝ていた。。。

Day 3

今日はいよいよ槍への登頂日。昨晩は疲れで爆睡し、かなり体力は回復した。

まずは独標に向かう。

05:50 北鎌尾根・稜線上

独標トラバースへの取り付きは、事前にルートロスしやすいと聞いていたポイント。なのに先行パーティーに安易に付いていってしまい、シビアなトラバースを強いられる。

この辺りは特に岩が脆く、触ったホールドが片っ端から剥がれ落ちていく。

右は断崖絶壁。この時は本当に命の危険を感じた。

戻るのも危険そうだったため、体力は削られるがハイマツとしばらく格闘しながら尾根上に登り返し、何とか正しいルートへ復帰。

昨日に続き、朝から1時間近いタイムロス。

一体何をやっているのだろうか…。

06:02 独標の手前

独標トラバースの取り付き地点。残置ロープのハーケンは錆びていたが、ここは極端にホールドが少ないため、このロープも頼り過ぎない程度に使う。

06:54 独標トラバースの取り付き地点

独標を少しトラバースしたところから振り返って撮影。ルートは比較的しっかりしているが、油断しないように進む。

07:02 独標のトラバース

このルートで有名な「コの字岩」。しゃがんで進むのは、ザックが引っ掛かって危険そう。

下の方にしっかりした足場があるので、そこを使ってコの字の床の部分に手をつきながら通過。

07:05 コの字岩

コの字岩を過ぎると、特徴的なチムニーが現れる。さらにトラバースする踏み跡もあるが、このチムニーから登ることに。

07:06 コの字岩を少し過ぎたところ

できるだけ安全に登れるところを見つけて登っていくと、ようやく槍が見える。

07:22 北鎌尾根・稜線上

独標から先は「尾根上を直登できるなら直登」が原則。

登山でのGPS(スマホ地図)使用については賛否があるが、僕は積極的に使う。一般道で誤ってルートから外れてしまうことも防げるし、バックカントリースキーでお目当ての沢を確認する際などにも便利だ。このルートにおいても、北鎌沢ではある程度有効だと思う。しかし、稜線上は話が別だ。GPSの技術は進歩し、昔に比べるとかなり正確になったが、5mくらいの誤差は珍しくない。北鎌尾根の稜線上では、5mの違いは天国と地獄ほどの差になり得る。しっかりと自分の目で、岩の弱点を見極めたい。

08:42 北鎌尾根・稜線上

トラバースできる部分もあるが、基本は飛騨側(写真の右側)。松本側は切れ落ちている部分が多い。

この辺りも、30分ごとぐらいに幕営適地を見かけた。槍が見える場所にテントを張れたら最高だろうな。

09:21 北鎌尾根・稜線上

一カ所だけ、松本側を巻く部分があったが、そこもすぐに飛騨側へ戻る。途中、懸垂支点もあったが、クライムダウンで問題なく下りられた。岩は不安定なので、先行者が下にいる場合は特に慎重に。

アップダウンを繰り返し、北鎌平に到着。ここも何張りかビバーク可能。ここから先はどこでも進めそうな感じだった。

9:49 北鎌平

いよいよ大槍に取り付く。このルートの中では難しいクライミングではないが、最後まで気を抜かずに慎重に。

10:33 大槍取り付き

たぶん「カニのはさみ」と呼ばれている岩。

10:38 カニのはさみ

大槍は割とどこでも登れそうだったが、こういうのとか…

10:40 大槍

こういうのがあるルートが一般的らしい。

10:43 大槍

最後のチムニー。ここは最初の数ムーブは気を遣った。登り切って間もなく、頂上からこちらを見下ろしている一般ハイカーの姿が見えるようになる。

10:48 最後のチムニー

北鎌尾根からの登頂者は、頂上で拍手で迎えられると聞く。決して目立つのが嫌いではない僕は、密かに楽しみにしていたのだ。笑

きい
きい

さぁ皆さん!北鎌を踏破した英雄が頂上に立ちますよ!

しかしこの時は、「なんか変なところから人が上がって来た…」という微妙な空気に!

さらには近くにいた人から、「そこルート違いますよ」との指摘が。

…!?

きい
きい

違ってるのはお前の認識だろうがぁぁぁぁぁぁぁ!!!

という言葉を飲み込み、冷静になって考えると、彼の言う事も一理ある。確かにここはバリエーションルートであって、正式なルートではない。つまり、彼は間違ったことは言っていない。そして僕は、誤りを指摘してくれたことに感謝しつつ、泣く泣くこう答えた。

きい
きい

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、はい。

そそくさと写真撮影の列に並び、後ろにいた方に記念写真を撮ってもらう。無事に登頂し、晴れ渡った僕の心にまさかの影が差したが、天気は最高だ。

10:58 槍ヶ岳山頂

この日は4連休の3日目で、穂先への登りは大混雑!(北鎌からなら待ち時間ゼロですよ!)

周りの登山者から、「そんなでかいザック、下に置いてこいよ」という冷たい視線を感じる(これは実際に言われた訳ではなく、ただの被害妄想だけどw)。

確かに、登山を始めたばかりの人からすれば、北鎌尾根なんてルートは知らないのかもしれない。それにしても、この日は登山に詳しい方はいらっしゃらないというのか…。

そんな中、穂先からの下りの列に並んでいると、写真撮影待ちの列にいた内の一人から「さっき上がってくるの見えました。北鎌から登って来たんですよね?すごいですね!」。

きい
きい

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい(ドヤ顔)

ありがとう。なんか頂上で予想外の事態になったけど、あなたの一言で全ては救われた(涙)。

さて、話を戻すと、穂先からの下りだ。北鎌から登って来て、ここで転んでは格好が付かないので、最後まで慎重に。

11:19 穂先からの下り

槍ヶ岳山荘まで下りてきて、ようやく一安心。山荘でカレーをいただく。

11:35 槍ヶ岳山荘前

下山はもちろん一般ルートで。この槍沢を残雪期にスキーで滑ったら最高だろうなぁ…。でもやはり上高地からここまでスキーを持ってくるのはなかなかクレイジー。笑

12:13 槍ヶ岳山頂前

槍ヶ岳山荘のテン場は当然のように一杯で、殺生ヒュッテにもすでに多くのテントが。

12:30 殺生ヒュッテ

個人的にはここも十分素晴らしいテン場だと思います!

12:34 殺生ヒュッテ

槍もこの辺りで見納め。

12:57 槍沢

疲れていてババ平でテントを張ろうかとも思ったが、翌日のUターンラッシュ回避のため、頑張って横尾まで下りてきた。

前日のビバークポイントに比べると、天国のようなテント場。

やり遂げた気持ちで、心地の良い眠りについた。

17:46 横尾

Day 4

最終日まで快晴。だが中央道の渋滞が心配なので、ちゃっちゃとテントを撤収して上高地へ。

05:51 横尾

4日間、最高の天気に恵まれて、憧れの北鎌尾根から無事登頂。反省も多々あるけど、まずはホッとした。

08:30 上高地

しかし、4連休の最終日を甘く見ていた。このあと結局、最後の核心「小仏トンネル大渋滞」につかまる。笑

ふりかえり

急遽決めた北鎌尾根の山行。

ワクワク・ドキドキの、初めてのバリエーションルート。言わずと知れた、日本を代表するクラシックルートだ。

それなりのレベルの体力、技術、そしてルートファインディング能力が求められる。

実際に行った感想としては、この時の僕には少し背伸びし過ぎたチョイスだったと思う。大きなルートミスだけでも2回、明らかに経験不足だった。体力的にもそれほど余裕はなかったと思う。

無事に帰って来れたのは、運が良かったという要素は否定できない。

不足した能力と経験を補ったのは、間違いなくクライミング力だろう。当時の僕は、自然の岩でのフリークライミング経験はなかったが、毎週のボルダリングジム通いを続けていて本当に良かった。

基本的に、最適なルートファインディングが出来れば、このルートでそれほど難しいクライミングは出てこない。しかし少し間違うと、難易度が一気に上がる。

ルート中で迷った場合、体力に余裕があれば、行ったり戻ったりしながら冷静な判断がしやすい。

どれか一つの能力が大きく欠けているとダメだけど、他の能力で補うことは出来る。

行ったことがある人に、同行をお願いするという選択肢もなくはなかった。というか、自分の実力を考えるとそれが適切だったと思う。

しかし、迷いながらも自分でルートを選択して登頂したことで、充実感は何倍にもなった

槍の祠の裏から、みんなの視線を感じつつ登るフィナーレは、このルートの締め括りにふさわしい(あとは拍手があれば最高だったなw)。

槍・穂高の山岳史を感じられる、名クラシック。登り応え抜群で、素晴らしいルートだった。

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きい
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登ったり滑ったりする人
1988年生まれ、愛媛県出身
東京の北西部に住み、週末は専らさらに北や西に出かける
仕事は電機メーカーのエンジニア
クライミング:2021年からリード&外岩を始めて本格的に
スキー:2017年からバックカントリーにハマる
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