2025GWスペインクライミングツアー:ロデジャー編

この記事は、2025年GWに行った、スペインクライミングツアーについて書いたものです(全5回のシリーズ)。
- 第1回:準備編
- 第2回:ロデジャー編(本記事)
- 第3回:シウラナ編
- 第4回:マルガレフ編
- 第5回:トラブルとツアーの振り返り編
2回目のロデジャー
岩場の概要などについては昨年の記事参照。

前回はとりあえず色々なルートを触ってみた。海外クライミング自体も初めてで、右も左もわからなかったし。
でも今回は違う。前回のツアーで現地クライマーの話を聞いたり、これぞロデジャーという超どっ被りロングルートのトライを見たり。
前回RPした最高グレードは7cで、SurgenciaというエリアにあるSayonara Babyというルート。
Surgenciaは上級者向けのエリアで、えげつないほどの前傾壁に圧倒される。しかし、Sayonara Babyはこのどっ被り部分を避けた端の方に引かれたライン。それでもしっかり被ってはいるのだが、正面の壁がすご過ぎてもはや垂壁に見えてしまう。
今回は便数をかけてでも、「これぞロデジャー」という1本を登りたかった。そしてその1本は、前回のツアーの時からすでに決まっていた。
Sayonara Babyと同じく、SurgenciaにあるNo Limit(7c+)。Surgenciaの超前傾壁をまともに登るルートは軒並み8台だが、No Limitは絶妙に弱点を突いており、唯一7台。それでも迫力は十分で、知名度が高い人気ルートだ。
話で聞いた限りでは、基本的にはガバの持久系。本音を言うと、グレード的には8aが登れたらカッコいいのだが、7c+も一般的なデシマル換算だと5.13aなので悪くはない。
薄被りのカチルートが得意な僕にとって、相性としては恐らく良くないので、短期ツアーのプロジェクトとしては十分チャレンジングだ。
前回は手頃なお土産をたくさん持って帰った感じなので、今回は出来るかどうかギリギリのクライミングをしてみたかった。
出国の少し前から、強傾斜の持久トレをやってきた。No Limitを登るためのツアーと言っても過言ではない!

天気とコンディション
前回の滞在中はあまり天気が良くなくて、雨の日も多かったけど、今回はほぼずっと晴れ。気温も高くて、ダウンの出番は少なかった。
一方、前回とは逆に我々が到着するまでは雨が多かったそうで、染み出しには悩まされた。滞在中に徐々に乾いてはいったが、それでも特にコルネ中心のルートは、最後まで登れないものもあった。
被っているエリアが多いので、当日の雨は実はそれほど問題ない。ツアー開始前の降雨量の方が重要かもしれない。
前回、一番楽しかったPince Sans Rireエリアもコルネが多いため、残念ながら状態が悪くて今回は断念。
また、前回ほほぼ靴を脱ぐ必要がなかったアプローチ中の渡渉だが、今回は水量が多く、毎回裸足になる必要があって面倒だった。川の水量はすぐには減らないようで、晴れが続いていたけどずっと同じ深さ。サンダルとタオルは準備しておいた方が良いと思う。

それでも、週間予報にずっと晴れマークが並んでいるのは気持ちが良かったし、なんだかんだ滞在中の天気良い方がストレスは少ないと思う。
エリア・ルート紹介
一番の狙いはNo Limitだったけど、仲間に毎日同じエリアに付き合ってもらう訳にもいかないし、今回もそれなりに色々なエリア・ルートで登った。
Nuit de Temps
メジャーエリアの1つである、Gran Bovedaの右隣りのエリア。アプローチが近く、午後から陽が当たらないので、夕方に到着した初日に登りに行った。
ロデジャーでは珍しく垂壁中心。
- ✅FANTHKES O PNTHERE(7a), 2go
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アップでやったらまさかの出だし落ち。すぐ下りてなんとか出だしのハングを抜け、終盤の垂壁核心を叫びながら突破してそのままRP。
何度か実質ノーハンドのレストはあるが、中間部にも油断できない箇所があり、40mしっかりクライミング。めっちゃパンプした。
カチが多く、シウラナを思わせる内容。7aとしてはかなり難しめ。
- ✅COUP DE MACHETE(6b), mOS
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前半はやたら左ガストンが多い。SAVANE ESQUISE(6b)との分岐前に、細かいホールドで保持力を要求される核心。
上部は右隣のMECALINA TROPICAL(7a)とかなり接近するため、終了点以外のボルトは分かれてるけど、ラインは実質同じ?
EL camino
エリア概要については昨年の記事参照。今回もツアー序盤で登りに行った。
今回、仲間は7b以上のルートにもトライしていたが、このエリアの7b以上はCruxy(核心に難しさが集中)になりがちなようだ。

- ✅FELIPE EL HERMOSO(6c), FL
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序盤で右手縦カチから左手を出すところが核心。そこからは基本的にガバだけど、上部にも少し悪いところがあり、素直にガバだけのPARA MIS AMIGOS(6a+)とかと比べるとやはり難しい。
- ✅Billy El Perros(7a), FL
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出だしは石を積まないと詰む。最初のガバカチからの距離出しが核心。上部は基本ガバで気持ち良く登れる。
- ✅La Larva(7a), mOS
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序盤でスラブ要素のある核心。中間部はガバで快適だが、上部はライン取りが謎。直上や右回りもいけなくはなさそうだったけど、グレードに対してかなりホールドが悪かったので、ややヤブ漕ぎしつつ左回りで登った。
Aquest Any Si
エリア概要については昨年の記事参照。前回は鳥の巣があって登れないルートが多かったが、今回は特に問題なかった。

- ✅CACO QUE TE MATO, 7b, 2go
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15m程と短いが、傾斜の強い部分に引かれたルート。3~4P目で細かいホールドの核心。上部はコルネ登りで持久力勝負。中間部のニーバーレストがポイント。
中間部のニーバーレスト 内容が詰まっていて面白い。1便目の印象ではかなり難しかったが、登れてしまうと7bの範囲内に感じる。
Las Ventanas
“Ventanas”は窓という意味らしい。ロデジャーのシンボルでもあるDelfinアーチに加え、壁にもう一つ大きな穴が開いている。
全体的に傾斜が強く、上級者向けのエリアではあるが、Delfin付近には取り付きやすいグレードが揃っている。このあたりはほぼ一日中陽が当たらないルートもあるようで、いつも賑わっている。
ロデジャーで死ぬまでに登りたい5本の8aの1本にも選ばれている、A CRABITAは少し気になっていたけど、出だしのコルネが濡れていたこともあって結局触らず。
今回は観光登攀のみ。

- ✅名無しルート(ネットトポのNo.19), 6a+, OS
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2つ並んだ名無しルートの内、右側にあってDelfinアーチに近い方。基本ガバだが、終盤で急に小川山。左手サイドアンダーからの遠い一手。その直前のヌン掛けは小柄だとキツイ。
Cafe solo
EgocentrismoやBoulder de Jonに近く、アプローチに優れたエリア。目の前に大きな広場があって快適。朝一を除いて陽も当たらないようだ。

- ✅CAFE CON LECHE(7b), 2go
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25m程とロデジャーの中では長いルートではないが、このエリアで一番高くまで登れるルート。エリア内で一番登られているルートでもある。
しかし、実質は下部3分の1ほどがほぼ全て。バランシーな垂壁から、パワフルな前傾壁。ホールドは割と大きくポジティブだが、思いの外パンプする。
岩質は有笠のパスファインダーのような感じでガビガビしている。
Bikini
こちらもアプローチが近いエリア。垂壁中心だが、ハング越えもある。朝は陽が当たらない。

- ✅Bikini(6a), FL
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エリアと同じ名前が付けられたルート。フリクションが乏しく、グレードの割にガバとはいえないホールドもある。慣れればアップに良さそう。
Gran Boveda
渓谷に入ると、真っ先に目が入る対岸の巨大な壁。全体的に傾斜が強くて上級者向き。コルネが発達しており、今回は染み出しが多かった。午後からは陽が当たらない。

- ❌NANUK(7c), 3d6go
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このエリアの人気ルート。下部はスラビー。1P目が少し高いので慎重に。
完全レストを挟み、太コルネの間をワイドクラック登り。セナミング、ステミング、ニーバーなどで休みつつ、コルネピンチが続く中間部。
上部の大穴ニーバーレストでどれだけ回復できるかがRPへの鍵。ここから急にホールドが細かくなる。右手サイコロカチを使うのか、左手細コルネに行くか悩ましい。
リップを止めた後はダメ押しのマントル。終了点は傾斜が死んだ後にドガバまであるので気持ちがいい。
6便中2便はリップを止めたもののマントル落ち。ここが本当の核心?
石灰岩の色々な要素が詰まっており、構成も素晴らしくてオススメのルート。
La Surgencia
エリア概要については昨年の記事参照。相変わらず圧倒的な威圧感の前傾壁。前回は猛者達の登りが見られてそれも楽しかったのだが、なぜか今回は訪れた3日間とも貸し切り。
色々なルートにヌンチャクは残置されてるんだけど、みんないつやってるの?

- ❌No Limit(7c+), 3d10go
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ルート解説
これだけ巨大な壁の中でも、大きなホールド列とチョーク跡が続いており、No Limitのラインは分かりやすい。
スタートからややトラバース気味に左上し、同じ壁に引かれた8台に比べると弱点を突いているのだが、それでもスケールは申し分ない。
このルートを登りに来た訳だが、「おれ本当にやるの?」と言いたくなるような迫力だ。いざこの壁の前に立つと、怖気づいてしまう。
出だしでボルダー核心。最初やった時は「ずっとこんな強度が続くの!?」とビックリしたけど、ここが断トツで最大強度なので安心して欲しい。
以降、ホールドはほぼガバしか出てこない。カチと言えなくもないホールドも割とあるが、明らかにガバカチだ。
6-7P間で遠い左手のガストンがあり、ここが第二核心。
第二核心 ガバでちょっとしたレストを挟み、7-8P間で第三核心。小刻みな左手ガストンと右手クロスを繰り返す6手ほど。バラせば全然大したことなくて、恐らく4級くらいだろうか。
第三核心 8P目でトラバースが完了し、ここからルートは直上していく。9P目まではまだ傾斜が強いが、終了点を除いて最終クリップとなる12P目にかけては垂壁に近い。
しかし、このルートは簡単には終わらせてくれない。最後の最後にまた傾斜が増し、ヨレていたら落ち得る数手。そして終了点のクリップホールドが結構悪い!
8P目までのトラバースがほとんどのウェートを占めていると言っていいだろう。8P目から終了点までを切り取ると、恐らく5.10台後半くらいじゃないだろうか。
終了点前が少し悪いとはいっても、垂壁ゾーンでほぼ完全レストとなるので、恐らく落ちない。
トライ
1便目の感触としては絶望的。出だしのボルダー核心はそもそも出来ないし、他はバラせば出来るものの、各駅停車で精一杯という感じだ。とにかく経験のない傾斜に圧倒され、嫌でも力が入ってしまう。
トラバース気味にランナウトしていくので、恐怖心もある。ロープドラッグ対策で180cmスリングを使っているところもあり、ビナが背中の後ろにくるような感じで、クリップにも力を使う。
しかし、2便目で印象が一変。まずは出だしのボルダーを解決。他もライン取りを変え、多少距離出しムーヴにはなるが、基本ガバを繋ぐようにしたら楽になった。
3便目でもう一度全体の流れを確認してDay1終了。
No LimitのDay2前日、完全レストを入れた。ツアー中も天気に問題ない限り、基本毎日登るのだが、それだけこのルートに対する思い入れは強かった。
Day2の1便目(計4便目)、YouTubeで見た5P目のニーバーを試す。しっかり休めるという程ではないが、ここはややホールドが細かいため、ムーヴの補助になっていい感じだ。
5P目のニーバー この日の2便目から本気で狙うが、6-7P間の第二核心で、左手ガストンが届かない。3,4便目も同じところでフォール。
それほどヨレている訳ではないと思うのだが、ここはムーヴがしっくり来ていなかった。この日でSurgenciaは最後の予定だったのに、全然納得がいかない落ち方で、かなり気持ちが沈んだ。
そんな様子を見て、自分は特にやるルートがなかったにも関わらず、キクさんがもう1日ビレイに付き合ってくれることに。本当に感謝。
No Limit, Day3。ロデジャークライミング最終日。日本だったら「また来週末」なのだが、「今日登れなかったら次のチャンスはいつになるのか?」と弱気になる。
Day2に繰り返しフォールした第二核心は、足位置を変えることで安定した。
Day3の1便目(計8便目)、初めて繋げて第二核心を突破!しかし、7P目のガバでシェイクを入れるものの、全然戻ってこない。バラせば何でもない第三核心でフォール。
前腕が痛くなるほどパンプしてしまった。しかし、これ以上ムーヴの改善点は思いつかないし、試す時間もない。
しっかり時間を空けてから2便目。今度は先ほどよりわずかに余力があり、ギリギリだったが第三核心をクリア!これでトラバース完了。ここから終了点までは5.11もない。
しかし、なんでもないようなガバが引けない。目の前にあるはずの次のガバに手が届かずフォール。9P目の少し上でノーハンドレストできるのだが、そこまでまだ10手弱残っていた。実はそれほど惜しくなかったのかもしれない。
これまで経験したことないくらいのパンプ。いざ繋がり出すと、1便ごとのダメージがめちゃくちゃでかい。かなりレストしてから3便目(計10便目)を出したが、もう力は残っていなかった。第三核心でフォール。
残念ながら登れなかったが、Day2と違って極限までヨレて落ちたので、やり切った満足感があった。
それなりに色々なルートを登ってきたので、どれだけヨレていても「このホールドなら戻せる」とか、逆にどれだけヨレていても「このホールドなら落ちない」という感覚を持っている。しかし、そういったこれまでの経験が全て覆されるルートだった。
一方で、自分に足りないものも分かった気がする。ツアー前、入間ベーキャンで2本続けて登るトレーニングをしていたが、少しグレードを下げてでも3本連続の方が良さそうだ。それでも、ロワーダウンしている間に結構戻せてしまう。強傾斜の長モノに延々と張り付くのがベストかもしれない。
国内で似たようなルートを探すとなると難しい。二子山・弓状エリアはどっ被りだと思っていたが、Surgenciaに比べると薄被りに感じてしまう。そういえば、鳳来クライマーは弓状を薄被りと言っているらしい。鬼岩とかハイカラ岩は、日本では貴重な強傾斜なのかもしれない。
いずれにしても、力をつけてまたチャレンジしたいと思う。
